1995年4月。ふぅ〜。遂に来てしまった...全16曲70分超過の大問題作『SIX/NINE』発表(いい加減この“発表”を“発狂”と錯覚しそうに...)。SとN、6と9、陰と陽、表裏一体、ニ律背反...この際ついでに、生と死! そんな深いめなタイトル(メタフォル)が付いたこの作品は、はっきり言ってこのバンドの一つの到達地点であると言っても過言ではない。そのサウンドは、実験と才能、人間とコンピューター、静と動、明と暗...などの様々な対象物がメチャクチャなバランス感覚で共存し、独自のミクスチャー・ミュージックを形成してしまっている。ポップとアヴァンギャルドを同義とする今井寿のセンスが、ここで見事に昇華されているのである。が、しかし、今井(このバンド)が各作品毎に見せる変則的なジャンプは常時の事であり、リスナーも当たり前のようにそれを期待しているのであるから、こういう進化傾向はある程度予想し得た展開ではあった。それなのに当時、批評家たちはこのアルバムを評するに際し、「難作」「カルト」「彼岸」といった種の言葉を引っ張り出しては、あからさまに困惑の態度を示したのだ。それは何故か? 原因は、徐々に深化を辿っていた櫻井敦司にあった。ここにある詞の数々は、死にたくても死にきれなかった男の苦悩と葛藤の塊のようである。業に取り憑かれた自分を救う為のそれが唯一の方法であるかのように、自らの手で病める精神患部を抉り出し、それを自虐的に歌い捨て、過去の自分自身をも完全に否定し嘲笑う。同時に、脆く弱い自分を懺悔し、生かされていることを受け入れ、ほんの僅かな希望の中にでも安らぎを見い出そうと、なり振り構わず必死にもがき叫ぶ。この作品は、リスナーへの媚びを放棄し、結局生きることしか出来ないという開き直りを手にした櫻井が、エゴイスティックな精神論を全て吐き尽くし、始まりから終わりまで“生”の嘆きと“生”の喜びが交錯する、まさに死線を彷徨う天然のコンセプト・アルバムとなってしまったのである。CDをプレイヤーに入れて再生すると、まず聞こえてくるのは、衰弱しきったかのようなまるで生気のない櫻井の、声。


1.「Loop」
今井制作の深遠なアンビエント・トラック。櫻井は歌うことはせず、詩を朗読。曲中でも単音分解され空間を浮遊しているが、タイトルの持つメタファーは“輪廻”。
2.「love letter」
セラピー直後の、ハードロック。あくまでもB-Tのハードなロック。端々に奇妙な音片を垣間見ることができる。櫻井は成りきったロー・ボイスの多重人格ぶり。詞は今井による英語。
3.「君のヴァニラ」
ドンッガシャジャーン。他では見れない不思議な興が乗った、まさに今井ならではの創り。変調転調ブレイクな畳み掛ける展開や、“チュー チュッチュチュッ”といったコーラスにニヤリ。極めつけはこのタイトル。その作者こと櫻井は、グラムロッカーをマネた卑猥なビブラート唱。
4.「鼓動」
全体が流雲の直中にいるかのような浮遊ノイズに包まれている彼岸ソング・アンビエント。安息のコード進行が美しい。なぜ生きてる? なぜ生まれた? そんなことは知らないし解らない。でも、生きていたいと思う、愛されているのなら。そんな前向きな感情に吹っ切った櫻井の一片。
5.「限りなく鼠」
悪趣味スレスレと低音ギリギリのアヴァンギャルド。詩は自己否定の極み。
6.「楽園(祈り 希い)」
打ち鳴らされるタブラ、響き渡る中東メロ。中盤からは四つ打ちのリズムに。無力感、終末観。そのなかに珍しく社会的な側面も。(アルバム発売直後の回収騒動は、この曲に挿入されていたコーラン逆回転サンプルが原因。)
7.「細い線」
自暴自棄の極地。歌う過食嘔吐と化す櫻井。自虐。虚無。ネガティブ・パンチラインの連続。
8.「Somewhere Nowhere」
浮宙アンビエント空間で繰り広げられる、櫻井と今井による即興寸劇。今井のアドリブ・ギター・ノイズと、櫻井のワン・テイク独演。
9.「相変わらずの「アレ」のカタマリがのさばる反吐の底の吹き溜まり」
タイトルからし今井寿の世界。暗い深海で鳴っているかのような音の重さ。一転、波に揺蕩う櫻井のコーラス。呟きともラップとも読経ともとれる今井のヴォーカル。“あの世界”の連中をディスりまくった詞。どう考えても恰好良すぎる異端宣言作品。
10.「デタラメ野郎」
今井博士と櫻井氏。といっても共にイカレて壊れて。博士は、ZTARも導入して実験度満点のギンギンなサウンド。未来のアングラ・ロック。氏は、史上屈指のブチ壊れ苦悶パフォーマンス。生きる・自由・死ぬ・自由...? 睡眠薬をバーボンで? 笑いたかったら笑え? .....超越の大迷曲。
11.「密室」
星野助手と櫻井氏。ダビーな深刻パラノイア歌謡。氏の変愛サーガ。
12.「Kick(大地を蹴る男)」
限りなくセンスの成せる旋律。これもやはり今井以外見当たらないタイプの異端歌謡。
13.「愛しのロック・スター」
星野による肩の力の抜けたナイス・グラム。この曲で櫻井は、歌唄いとしての自分を完膚無きまでに皮肉り、更に本当の自分を理解せず盲目に騒ぎたてるだけのファンをも突き放した。
14.「唄」
今井、一念発起、渾身のハード・ロック。ゴリゴリなギター・リフとへヴィーなリズム(60〜70年代チック)がまんまと恰好良い。が、またも詞が異常。“どうして生きているのか この俺は そうだ狂いだしたい 生きてる証が欲しい”、“神経は落ちてくばかりで 鼓動はずっとあばれ出しそうだ”という櫻井と今井の掛け合いが、個人的には究極のB-Tであり、他のアーティストとの最大の差異であると思う。
15.「見えない物を見ようとする誤解 全て誤解だ」
逆説的思想。慈悲。親鸞???
16.「Loop MARK II」
inst.

for B-T by POLTERGUYSTARS